WEAKEND
- 創作コンテスト2014 -

翌日

この日、ラオンは跳疾風隊と共に任務に参加していた。

内容は天使の城近隣の森の魔物退治という軽いものである。

幸い、この日閃輝隊には任務が入っていない。

面子はラッズィ、ケシル、ラグナ、レミの跳疾風隊4名にラオンを加えた5名。

ガヴィリや他の隊員達は別件にあたっていた。

 

「指揮はラッズィ君に任せるからのびのびとやってくれていいよ」

「了解っす。

じゃあ今回もいつも通り、全体で動きつつもそれぞれ二人ずつで固まって連携してもらうから。

まずはレミとラグナ。

ラグナはまだ経験が浅いからレミがいろいろ助けてやって」

「はい!」

「それで、ケシルはラオンさんと連携してもらうからな」

 

ラッズィはラオンの事情をガヴィリから聞いて知っていた。だからあえてラオンとケシルをタッグにしたのだ。

当然ながらケシルは眉間にシワをよせた。

 

「副隊長、ちょっと待ってください。

私は一人でもやれますよ」

ケシルは遠回しにラオンとは組みたくないと告げる。

「あのなぁ、別にお前の実力が足りていないとは言ってないからな。

どんなに実力があっても一人では対処しきれない状況もあるんだ。

そのための二人一組なんだから。いいな?」

「…嫌です」

ラッズィは思わずガックリと腰を下ろす。

いつもならこの場面でケシルは引き下がっていた。しかし、この日は状況が少し違った。

ケシルはこの日まだ一度もガヴィリには会っていない。

そう、圧倒的にガヴィリ成分が不足していたのだ。

それだけでケシルを不機嫌にさせるには十分だった。

 

「お前…」

ラッズィも負けじと説得にあたろうとしたが、途中で止める。

ラオンの手がラッズィの肩に置かれていたからだ。

「いいよ。元々オレはおまけみたいなものだし。一歩下がって皆についていくよ。それで危なかったらサポートするから」

「ラオンさん…。わかりました。そのかわりオレとケシルで一組にするからそれで我慢しろよ」

「…はい。

一人でいいって言ったのに(ぼそっ」

 

一応のまとまりを見せた跳疾風隊は早速任務を開始する。

 

任務自体は何の滞りもなく進行した。

ラオンもサポートするとは言ったが、全くその必要はなさそうだった。

森を奥へ奥へと進みつつもラオンはレミ達に話し掛ける。

「レミちゃんも成長したね。元上官として嬉しいよ」

「本当ですか!?ありがとうございます!でもまだまだ課題はあるみたいで…」

「一つ一つ克服していけばいいさ。

ラグナ君もこの前天使になったばかりとは思えない動きだね。ジン君も教えた甲斐があったってもんだ」

「あ、ありがとうございます!ジンさんにもいろいろとお世話になりました」

「私はあれはどう見てもイジメだと思うだけどなぁ」

レミの声には怒りが見え隠れしていた。若干ラグナもビクっとしている。

「うーん、ジン君は不器用だからね。彼には彼なりの考えがあってのことなんだろう」

「ホントですかねぇ…」

 

レミにはどうしてもジンという存在を信用ならないと感じていたようだった。

一方のラオンは昨日のジンとのやり取りを思い起こし、心の中で苦笑いを浮かべていた…が、

 

「…!その調子で続けててね」

ラオンは先程までの穏やかな顔から一転させ、走り去る。

ラグナもレミも突然のことに口をぽっかりと開け、続いて顔を見合わせていた。

 

ラオン達が会話をしていた頃、ラッズィ、ケシルの二人は迫りくる魔物達を対処していた。

特にケシルの格闘は凄まじく、拳の一撃で次々と魔物達を沈めていく。

「早く隊長に会うんだから邪魔するな…」

隣にいるラッズィにはそのケシルの強さに怨念めいたものを感じていた。

本能的に察した。今彼女に話し掛けてはいけないと。

今の彼女の目に映るものは目の前の魔物達でも、生い茂る草花や木々でもない。

それはガヴィリの姿ただ一つである。

 

…!?

この時、ラッズィは何らか違和感を覚える。

 

今…ケシルの後方の景色が不自然に揺れたような…?

風による揺れなんかじゃない。

まさか…!

「ケシルちゃん!後ろ」

ラッズィが異変を察知したのとほぼ同時に、ラオンの声が聞こえてきた。

その声に反応し、ケシルは後ろへと振り返る。

「ゴブリン…!」

そこにいたのは確かにゴブリンだった。

しかしただのゴブリンではない。

その体表は周囲の景色と同化していた。そう、その個体はいわゆる『擬態』の能力を有していたのだ。

焦りから視野が狭くなっていたケシルにはその存在に気付くことはできなかったらしい。

ラオンはラッズィへと目線を送る。

それを見てラッズィは首を縦に振る。

ラオンは遠距離から神棒ジャッジメントロストギルティを一振りした。

するとその衝撃は空気を通して伝わり、ゴブリンの身体を突き飛ばす。

「ここだ!」

続けざまにラッズィは浮き上がったゴブリンの身体目がけて槍を突き出した…。

 

・・・

ラオンとラッズィ、二人の連携により擬態ゴブリンは撃退された。

「大丈夫だった?」

ラオンは優しくケシルに声をかける。

「心配ないです。そもそも私ひとりでなんとかできましたから」

「お、おい、せっかく心配してくれたんだから…」

「いいよいいよ。大丈夫そうだし良かったよ」

この後も任務は続行された。若干のわだかまりを残して…。

 

「それじゃあ任務終了。今日もお疲れさん」

任務終了を告げるラッズィの言葉の後、隊員達はそれぞれ挨拶をして解散していく。

特にケシルは一目散にその場から姿を消した。

目的は言うまでもない。

 

「ラッズィ君、ちょっといいかな?」

目線を向ければラオンは手招きして呼んでいた。

「いいっすよ」

ラッズィは小走りで彼の元へと駆け寄る。

「もし知っていればだけど、ケシルちゃんは男のどこが嫌いなのか教えてくれないかな?」

「その質問、オレも本人にしたことがあるんですけど、その答は…『全部』だそうですよ」

「全部って…」

「はい、顔、体格、思考、声、男のあらゆるものが嫌いだと言ってました…」

「要するに存在そのものが許せない、ということだね。

それは困ったな…。もはや対策の余地がない」

二人の周囲に重い空気が立ち込める。

「正直なところ、ケシルの男嫌いを解消するのは、種族間の争いを無くすより難しいかもしれないです」

「まいったね…。とりあえず貴重な話をありがとう。もう行っていいよ」

「また何かあったら言ってください。その時は協力するんで」

ラッズィは浅くお辞儀をすると城の中へと戻っていった。

 

「種族間の争いを無くすより難しい…か」

あらゆる種族が手をとりあう世界を夢見ていた人がかつていた。

彼女ならこの状況をどう乗り越えるだろうか…

 

 

ラオンの頭に浮かぶのは屈託のない笑顔と桃色の髪が特徴的な女性。

その人の事を思い浮かべた時、ある日の記憶が甦ってきた。

 

 

「ある日対立する種族の人と遭遇してしまいました。その人とすぐに仲良くなる方法を100文字以内で述べなさい。はい、ラオン君!」

その女性はどこから持ち出したのか指示棒でビシッとラオンを指す。

しかもかけてもない眼鏡の位置を直すしぐさもオマケつきで。

「…突然何ですかレイシャさん」

急なことに彼はきょとんとして固まった。

「はい、いいから答える!」ちなみに制限時間は80秒ね」

もはや彼に拒否権などなかった。

「そんな急に言われてもすぐには思いつかないですよ」

「そんなに難しく考えなくてもいいから、思ったことをありのままに言ってみて!

正しい答なんてひとつじゃないんだからラオン君なりの答を示せばいいんだよ」

「そうですね…。

オレなら…」

その時オレはレイシャさんの言う通り、思ったことをありのまま話した。

 

「いいじゃないそれ!ラオン君らしいよ!

でも惜しい!字数が36文字オーバー。しかも制限時間も22秒超えてたね」

「それ…ホントに数えてたんですか…」

 

 

そうだ、あるじゃないか。方法が…!

あの時示したオレの答…相手は少し違うけど試す時が来たのかもしれない。

…ありがとう、レイシャさん。

 

考えがまとまれば後は行動を起こすのみ。

ラオンは一度自室にもどり、『あるもの』を手にとると、再び部屋の外へと出る。

ケシルを探して城中を歩き回っていると、中庭にて彼女とガヴィリの姿を確認できた。

 

お、やっぱり二人でいる。丁度いいな。

「おーい。お二人さん」

「…邪魔が入った(ぼそ」

予想通りケシルは顔を歪ませた。

「あら、ラオン。何かあった?」

「実はさ、明後日にLEENAのライブがあるんだけど、チケットが余っちゃったんだよね、二枚も。

そこでお二人さんもご一緒にって思ったんだけど、どうかな?」

ラオンはさりげなく目線をガヴィリへと向け、アイコンタクトをとる。

ガヴィリはそれをウィンクで返す。

「明後日なら空いてるし、問題ないけど。ケシルはどうする?」

「隊長が一緒なら言ってもいいですよ。

…そして邪魔者は排除して二人っきりに(ぼそ」

何やら邪悪な計画が聞こえた気がするが、あえて流した。

まずはライブに言ってもらうことが前提条件だったからだ。

「それじゃあ。明後日の朝にここに集まって。道案内とかはオレがするから。

細かい時間とかも後で連絡するよ。

あと、はい、これチケット」

ラオンは先ほど部屋から取ってきたチケットを二人に手渡す。

ケシルの方は男と同じものを触れていたくないとばかりに素早くチケットを取る…

というよりは奪い取った。さらにラオンが触れていた場所には絶対に触らないという徹底ぶりである。

「はは…、それじゃあまた」



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