WEAKEND
- 創作コンテスト2014 -

 見渡す限りの雪原が目の前に広がり、鈍色の厚い雲に覆われた空からちらちらと雪が舞い散る。支給品の制服は軽装風の見た目でありながら、防御魔法を織り込むことによってある程度の寒暖差に耐えられるようにできているとはいえ、吐く息が白くなる気温の低さに、俺は金色の縁取りをもつ上衣の襟を思わずかき合わせた。

 少し離れた所に佇んでいる、これも金色の襟の制服を着た精悍な顔立ちの男は、雪原の彼方を油断なく見やっている。その男が身に帯びているのは俺が数年前に受け継いだはずの氷剣、その髪は俺と同じ硬くて毛先が飛び跳ねがちな黒髪、その瞳は俺と同じ漆黒。だけど、その視線が男の生きているうちに俺の方に向けられたことはない。

 男が口を開いた。

「この区域の調査が今回の任務だな」

 家にいることなどほとんどなく、強大な魔族を追っていると城から連絡を入れたのを最後に二度と帰って来なかった、家族を捨てたも同然の相手に、言いたいことも聞きたいことも山ほどあった。だけど、今は任務だ。のんびり話している時間はない。

「そうですね」

 短く答える。

「危なくなったら呼べ。救援に駆けつける」

 俺が側にいてほしいと思ったときには一度も側にいたことがなかった男――俺の父親、オックスが言った。

 俺は視線を合わせなかった。父親の顔を見ず、雪原の先に目を向けたまま答える。

「助けなんか必要ない。この程度の任務、俺一人で十分です」

 苦笑とも溜め息ともつかない、呼吸の漏れる音が聞こえた。

「勇ましいな。――それじゃ、行くぞ」

 そう言うと雪片を舞い上げ、男は飛翔の魔法で上空へと飛び立った。

 舞い上がる父親の白い制服と長い黒髪が風になびくのを見上げながら、これは夢だと頭のどこかで解っていた。目が覚めれば父親はもういなくて、俺は城の居住区の自室にいて、天界の平和のために戦場で剣を振るう日々が待っているのだ。

 だから、ここで父親と言葉を交わし、同じ空を飛ぶことには何の意味もないのかもしれない。だけど、それならばなぜこんな夢を俺は繰り返し見るのだろう。

 考えても解らなかった。今はともかく、この「任務」を遂行することだ――。父親がもう帰って来ないとわかった日に受け継いだ氷剣・アイスブレイドを鞘から抜き放ち、俺も飛んだ。

 高度を徐々に上げるにつれ、地上の風景は小さくなっていく。上空から見渡す雪原は魔物の不穏な気配に満ち、天界の兵器厰の防御魔法をもってしてもなお、大気は身を切るように冷たい。父親はすでに離れた場所に移動したらしく、姿が見えなかった。降り続く雪の中、俺は一人突き進んでいった。



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