もう思い残すことはなかった。細かくフットワークを刻み、目の前に並んだ相手との間合いを測る。
兄の遺志を継いで、魔獣の力を持つ王にこの極東の地で仕え、主君の覇道を助けることこそが自分の生きる道だと信じてやってきた。
けれど、どれほど手を尽くしても行く先に光明の見えない徒労感。自分のいる場所以上の高みに触れることができないという、砂を噛むような味気なさ。
――私のいる場所は、ここではない。
すでに心は決まっていた。だから、長年仕えた主君と、とうとう同じ風景を見ることができなかった同僚たちが立ち塞がっても、迷いはなかった。
――未来は、この先にあるんだ。
息を深く吸い込み、胸の前で構えた両拳に魔力を込めた。拳に纏わせた“音”が、身に馴染んだ、確かで力強い波動を放つ。
「……行きます」
低く一声発すると、地を蹴って駆けた。倒すべき相手に向かって。「未来」に向かって。