WEAKEND
- 創作コンテスト2012 -

「今日はプリンがあるよ!早く食べたいな!」

「サキ、飯一杯食べてただろ。
まだ足りないのか?」

「ジン兄うるさい!
プリンは別腹なの!」

「……ふふっ。
ジン君、女の子は甘いものには目が無いのよ」

「でも、よくこんなに食べるよな……」

「ジン兄も一緒に食べるの!」

 

――――――――

 

 エルガン家のプリン

 

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私はサキ=ミエル。
閃輝隊所属の下級天使。

そんな私は今、中級天使に上がるための昇級試験を受けている。
結構な人がいるが、知り合いは彼女だけだ。

「サキ、緊張してる?」

「はい。
ハーニさんは緊張しないのですか」

「私も緊張してるよ。
ラオン隊長が薦めてくれたから昇級試験を受けているけど、実は私、そんなに自信無いんだ。
この前も練習でジンに負けたしね」

「ジンは戦闘能力だけですから」

そんな他愛もない話をしていたら、少し緊張が和らいできた気がする。

「ありがとうございます、ハーニさん」

「ん?」

「お陰で緊張がほぐれました」

「私も。
じゃあ、お互い頑張ろうね」

「はい」

私の昇級試験は、間もなく始まる。

 

――――――――

 

昇級試験の課題は、任務だった。
受験者2、3人が、監督者とともに任務をこなす。
戦闘能力はもちろん、仲間との連携、リーダーシップなど様々な能力が要求される試験だ。

私は跳疾風隊のポアールさんと一緒のグループだ。
そして監督者はなんと、現在の大天使であるウーリさんだった。

「では、今回の任務の説明をする。
内容は静東の森で大量発生した魔物の殲滅。
ランクはCであるから失敗することはないとは思う。
緊張せずに、普段通りに任務をこなしてもらえれば良いと思っている。
何か質問はあるか?」

「ありません」
「無いです〜よ」

私は跳疾風隊に所属していたことがあるので、ポアールさんの話し方を何度か聞いていたはずだが、久しく聞いていなかったので違和感を覚えた。

「では任務に向かう」

 

――――――――

 

ウーリさんは監督がメインなので、実質私とポアールさんの二人で任務をしていることになる。
監督者と一緒に任務をすると聞いていたが、少し違ったようだ。

任務については、基本的には私が左側、彼が右側に現れた魔物を担当し、大量に現れた時は呼び掛けることにしてある。

「払裂」

目の前に2体現れたゴブリンを、私は横に薙ぎ払った。
ゴブリン達は、グチャッという音を立てて倒れた。
今のところ、個体数はそれほど多くないように思う。

「斬撃」

私の右にいる彼も順調なようだ。

そして再び左を向くと、そこには目を疑う光景が広がっていた。

ゴブリンの群れ――ざっと20体はいるだろう――がこちらに向かって来ている。

「ポアールさん、ゴブリンの群れが向かってきています。
個体数は約20。
余裕があれば援護をお願いします」

「分かりました〜よ」

そう言ってポアールさんはこちらに援護してくれたが、私は見逃さなかった。
右にあと1体ゴブリンがいる。

「エアプレス!」

迫ってくる群れに対応することを考えるとあまり右に動くべきではないので、遠距離まで届き、かつ威力もある魔法に頼らざるを得なかった。

それより今は群れだ。
再び左を向くと、先程以上に近づいてきていた。

「まず私が風属性魔法で遠距離攻撃をして相手を撹乱し、グループに分かれさせたいと思います。
その後、個体数が少なくなったグループに各自攻撃するという方針でいいですか」

「いいです〜よ」

まず私の番だ。
出来るだけ相手を散り散りにする為に、威力のある魔法にした方がいい。

「風よ、空に暴れよ!
ハリケーン!」

詠唱によって威力が向上した暴風は、ゴブリンの群れを吹き飛ばす。
群れは5つの集団に分かれた。

「では、攻撃開始です〜よ。
そっと斬ります〜よ」

『そっと』という名前とは裏腹に、ポアールさんは一気に1つの集団を斬りつけた。

私も払裂で順調に集団を倒す。

そして残り1つの集団になった時。

「……とどめさします〜よ!」

ポアールさんがいつの間にか私の左にいた。
そのすぐ目の前には。

「ノッシィィ……」

断末魔の叫び声を上げるイノッシー。
私が気付かないうちに、かなり近くまで接近していた。

「危なかったです〜よ」

「ありがとうございました。
私は全く気付きませんでした」

私は、あれほど接近していたイノッシーに気付けなかった事が情けなかった。

「周囲の状況を把握する能力に欠けている」

ウーリさんが私の心に突き刺さる一言を発する。
この言葉を聞いて、私はもう落第確定だと思った。

しかしまだ任務は続いているので泣いてはいられない。

「以後気を付けます」

「で〜も、無事で良かったです〜よ」

「では任務を再開する」

 

――――――――

 

静東の森の最奥部にたどり着いた。
ここに何もいなければ任務終了だが、もちろん何もいないわけはない。

今までよりずっと大きいゴブリンが現れた。

「見たこともな〜い、大きさです〜よ」

「このゴブリンは、攻撃すると分裂するタイプです。
大きい状態ではあまり速く動かないので、小さいゴブリンを分離させて倒すというのを繰り返せばいいと思います」

「僕は遠距離攻撃ができないの〜で、サキさんに遠距離か〜ら魔法で攻撃してもら〜い、小さく分裂し〜たゴブリンを僕が攻撃しま〜す」

「分かりました。
周囲に現れた魔物の攻撃も私が担当します」

そして攻撃が始まる。
出来るだけ小さく分裂させるためには、端の方を狙わなければならない。

そこまで厳密に狙う必要はないが、あくまでも目標は端。

「ウィンドカッター」

私が起こした風の刃は大ゴブリンに向かって進み、そして衝突した瞬間、掬い出されるように小ゴブリンが飛び出た。

プリンにスプーンを入れた時のような感覚だ。

「斬撃」

そしてポアールさんは分離したゴブリンに攻撃する。
そのゴブリンはもう1度分裂したが、その分裂で生じた2体のゴブリンは、再びポアールさんが斬撃をすると生き絶えた。

先程より少し小さめに分離させた方が良いな。

「次の攻撃をお願いします〜よ」
「分かりました」

そして私はまたウィンドカッターを放つ。
そして分離したゴブリンは今度は1回の斬撃で倒れた。

先程の例えだと、小さめの一口を掬った感じだ。

「4、5体位なら一度に対応できそうです〜よ。
早くしない〜と日が暮れてしまうの〜で、一度に数発ウィンドカッターを放ってもらえます〜か」

「分かりました」

ウィンドカッター数発を連続して、かつ出来るだけ小さく分裂するように放たなければならない。
魔法の精度を要求される役目だ。

「ふぅ」

私は一度深呼吸し、集中し直した。
そして、再び大ゴブリンに向き直る。

私の好きなプリンを、度も味わうために、出来るだけ小さい一口になるように掬う。
その感覚だ。

「ウィンドカッター!」

3発の風の刃を放つ。
それは3体のゴブリンを薙ぎ取った。
その3体もポアールさんの斬撃であえなく力尽きる。

そのタイミングを見計らって、私は再びウィンドカッターを3発放つ。

その時、視界の一隅に動く影が映った。
私はすぐさまその影に向き合う。
それはイノッシーの大群だった。

1体なら倒せば済むのだが、何せ相手は集団だ。
20体はいるだろう。
そのような状況で、立ち向かうことなど不可能に近かった。

「ポアールさん!
イノッシーの大群が来ました!
樹の上に逃げてください」

「了解です〜よ」

魔物に立ち向かえないならば避難するしかない。

イノッシー相手の場合、樹がへし折られる可能性もあるが、他に避難場所がない以上樹で妥協するしかない。

イノッシーの大群は依然猛スピードで近づいてくる。

そしてある個体は樹に衝突した。
私が登った樹も、彼らの突進によってミシーッとしなり始めている。

そしてある個体は岩に衝突した。
鼻の角からぶつかっていくため、辺りにはドスッという重い音が響く。

そしてある個体は……

「しまった!」

大ゴブリンに衝突した。
その衝突でゴブリンは真っ二つに分裂。

さらに後続のイノッシーが次々と衝突し、ゴブリンは50体程度に分裂した。

結果、イノッシーのうち倒れていないものが約10、それにゴブリンが約50。

この展開は想定外だった。

「サキさ〜ん。
どうします〜か」

「私が高等魔法である程度個体数を減らしてから、地上に降りて対応しましょう!」

ポアールさんの返答は無かったが、暗黙の了解と取っていいだろう。
私は魔法の準備に取り掛かる。

高等魔法は気力の消耗が激しいため、下手に使うと術者が意識を失いかねないのだ。

「空を轟く千々の風!
サウザンドハリケーン!」

爆音を響かせながら暴風は魔物達を吹き飛ばす。
魔物の大部分は動かなくなった。

「そっと斬ります〜よ」

残った魔物もポアールさんが次々と斬り倒す。

そして、魔物の殲滅が完了した。

「はぁ、はぁ」

ランクCの割に、疲労感が半端ではない。
本当にランクCだったのか尋ねたくなるほどだ。

「よし、任務完了だな」

そして久々に聞く声。
この声を聞くまで、任務に集中しすぎていて、ウーリさんの存在を忘れていた。

「終わりました〜ね」

「……そのようですね」

私達も安堵の息を漏らす。

「では、天使の城に帰還する。
昇級試験の合否は後日伝達する」

そして私達は帰路についた。

 

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