大天使大会から二日後のこと。
ここ、天使の城の庭には、大天使の称号を勝ちとった一人の天使、そしてその大天使と剣を交えている、見習い天使がもう一人。
「あの、ジンさんそろそろ疲れてきたんですけど。」
「なに言ってんだ、まだまだこれからだぜ。」
「でも僕、これから入隊試験の勉強があるんですけど。」
一年に一度見習い天使が下級天使に進級するために行われる「天使入隊試験」
ラグナも、入隊試験を受ける見習い天使の一人である。
「ふーん、まあ頑張れよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「んじゃ、続きやるぞ。」
「え、ええ〜」
そう言うと、ジンの剣が再び動き始める。それに、つられるように、ラグナの剣も再び動き始める。
「おいおい、この程度かよ。大天使の俺様が、特訓してやってるんだから、試験で落ちるなよ。」
「こんなとこに居たのか、ジン!」
「なんだてめーか、特訓の邪魔するなよ。」
緑色の襟の服を着た、側近天使であるサキは、いつものようにジンを注意する。
「ラグナをいじめるな、嫌がっているだろう!」
「ばーか、そんなんじゃねーよ。・・・チッ、気分が冷めちまった。」
「ラグナ、続きは今度だ。じゃーな。」
そう言うと、ジンはその場から去っていった。
・・・・・
「ジン、話はまだ終わっていない!」
「なんだよ、まだなにかあるのかよ」
ジンを、追うようにについてくるサキは、なにか、頭にきているようであった。
「ジン!貴様の行動は、目に余る。大体、任務はどうした、隊員に迷惑がかかるだろう!」
「閃輝隊なら、やめた。」
「な、なんだとぉ!貴様、なにをやってるのだ!」
「大天使は自由だ、別にいいだろ。」
「そういう、問題ではない!それに、エクスカリバーまで持ち出して、一体どういうつもりだ!」
「聖剣エクスカリバー」使用者の聖気を吸収する性質や、手にした者に災いをもたらす、という伝承から「魔剣エクスカリバー」とも呼ばれる代物。
かつては、有事の際のみ、使用を許された聖剣である。
「持ち出したんじゃねー、許可だって取った。」
「そういう問題ではない!そもそも、その剣は危険すぎる!」
「うっせーな!そんなに文句があんなら、てめーが大天使大会で、優勝すればよかったじゃねーか!」
ジンは、苛立ちを見せると、今度こそサキの前から去っていった。
それから、少したって・・・
「ラオンさん!」
「やあサキちゃん、一体どうしたんだい?」
閃輝隊の隊長であり、黄金六天使に数えられる、「閃光のラオン」。それがサキの目の前にいる人物である。
「ジンが閃輝隊をやめたって、本当ですか!?」
「ああ、本当だよ。」
本人から聞いたことを、疑っていたわけではないが、いざ閃輝隊の隊長から聞くと、現実味が増してくる。
「ラオンさん、ジンに大天使を辞退するように、説得してもらえませんか?」
「すまないけど、それは無理だ。ジン君は、大天使を辞退するつもりはないだろう。」
「ウーリの件・・・ですか?」
「それもあるだろうけど、ジン君は昔から、大天使に対して、強い執着心を持っていたからね。大天使の称号を譲る気はないと思うよ。」
「それに、俺は敗者だ。敗者が勝者に口出しする権利はない。闘いって、そういうものだと思うよ。」
「そうですか。」
「まあ、何かあったら、元隊長として、それなりの責任はとるよ。」
ラオンは、周囲から「放任主義者」とか「手抜き」と思われがちだが、本当は部下思いの、隊長である。
問題児と呼ばれる、ジンの責任をとるという発言から、それが垣間見える。
「ジン君とサキちゃんは昔馴染みだから、色々大変だろうけど、うちの元隊員をよろしく頼むよ。」
「いえ。いきなり、呼び止めたりして、すみませんでした。」
「それじゃーね」
大天使という、称号を勝ちとったジン=ホリィ。そして、それを取り巻く環境。
これから、どのような出来事と遭遇し、彼は、どのように成長していくのだろうか。
〜fin〜