WEAKEND
- 創作コンテスト2012 -

終章
夜の闇に紛れる前に

 

 

 

 

 

day6/11:53

 厚い雲が、ビーリヴ村を覆った。村を賊が取り囲む。数人の青年が武器をとっているが、その手は震えているようにみえた。
  1人の斧を持った賊が、青年に向かって斧を振り下ろす。だが、断末魔の声は聞こえない。細いが重いレッドフラメルが、斧を支えていた。バクエンが軽く斧を払うと、相手のみぞおちに拳を入れた。
  剣が腹を貫こうとする、それを交わし、賊の首に肘打ちを入れ、みぞおちにも膝を入れる。次から次へと現れる剣客を軽く自らの体術で軽くあしらっていく。

 

day6/12:47

 幾筋もの剣筋が、ルーシの耳をかすめる。剣で受けることもなく、アルバートの華麗な剣技を避ける。
  目の前からアルバートが消える。ルーシは少しめんどくさげな表情を浮かべる。
  アルバートが空中で回転しながらルーシの背後を斬りつけかけたが、向き直る勢いで剣を弾いた。

「さすが、オックスさんの」
「児戯はよして下さい
  様子見なのはわかっているんです」
「君の友達だって言っているだろ?
『いつだって本気さ。今だってね』って」

 ルーシの周りに雷が発生しだした。一歩でも動けば感電する。

 

 

 彼の目の前に剣が振り下ろされる。

 

 

 

 だが、目の前の賊が剣を落とすと、ゆっくりと地に落ちていく。バクエンは横を見る。先ほどの女天使が短剣を構えていた。
「な、なんのつもりや」
「戦闘しちゃいけないって言われても、あなた達の加勢くらいはいいでしょ?」
「ええんか?そんなことして」
「後に芽生える物が、憎しみなんて嫌じゃない。無理なのはわかってるけど」
  ガヴィリは駆け出していった。風の魔法を辺りに漂わせながら、二つの短剣で蝶が舞うかのように次々と族を倒し、赤い華を咲かせていく。
  そればかりに見とれているバクエンではなかった。拳に炎を纏わせ、目の前の敵に飛びかかり脳天にその拳をぶつける。拍子に周りにいた敵も足であしらった。

 

day6/13:28

 ゼヌスは少し驚いていた。賊の人数がなかなか減らないためであった。本当に賊なのか?それすらを疑うほど数が多かった。
  武術においては秀でているゼヌスにも、疲労の色は出ていた。だが、それすらを感じさせない身のこなしで、敵を一蹴する。
  ゼヌスは、息を落ち着け、目をつむり、独特の構えをとる。『雷風闘乱の構え』と名付けられた構え。雲が少しずつまた厚くなり、それと同時に稲妻が光り出す。
  構えを解く、いつもの優しい村長の顔はなかった。鬼神ともいえそうな男は、目の前の剣客の首に猛烈な足蹴りを食らわせると、遠くにいた賊にも飛びつき、裏拳でのしてしまった。

 

 

day6/15:09

 ルーシから放たれたアイスニードルも、ぼろぼろになった天使服が身代わりとなった。
  上半身が露わになったアルバートは、得意の死角からの攻撃をする余裕もなく、ひたすら防戦していた。右のガラスも上半分欠け、息づかいも荒くなっていた。対するルーシも、姿を一瞬で消せる相手に攻めあぐねていた。精神的に張りつめ、冷静さが少し欠けてきていた。
  戦場に鉄の打ち合う音がこだまする。他に聞こえるのは、両者の荒い息の音のみ。そのはずだった。
  剣を互いに打ち合わせたまま、二人は目を動かさずに周りを見渡す。魔物、恐らく、死肉を貪りにきた魔物の群れが囲んでいた。
  両者は剣を勢いよく外した後、飛びかかってくる魔物に向かって斬りつけた。
『ビーナススター』と名付けられた魔法が周りの魔物を次々と貫いていく。拳くらいの雹が血に濡れ、熱い大地へと落ちていく。怯んだ魔物にも、死神は容赦しなかった。

 

 

 雨足が強くなっていく戦場には、さらに多くの魔物が、死肉を喰らわんと、舌を延ばしながら取り囲んでいた。

 

 

「……花も手向けられない、穴も掘れないけれど」
  レイシャは鋭い眼光を周りの魔物に向ける。
「あなた達の犠牲。魔物なんかのエサにはさせない!!」
  剣を掲げると、辺りに大量の水が現れる。飛びかかる魔物に放たれる波。彼女の気力が持つ限界まで幾重にもたたみかける。
  ある程度数が減る。剣を下に下ろし、ゆっくりと魔物の方に近づく。魔物が駆け出してくる。それらを、ドラゴニックセイバーで切り裂いていく。
  戦場は無慈悲で、魔物はすぐには減らない。死した者を守ろうとする者にも、容赦しなかった。

 

 

day6/16:03

 

 ビーリヴ村に、少しだけ日差しが差し込んだ。ヘレンが怪我人の救護に追われていた。
  そこに、ガヴィリの姿はなかった。バクエンはその時、彼女を相手にしなくて正解だったと深く反省していた。
  ゼヌスは、自分の腕を眺めていた。紅い物が、いたるところに付着していた。
「じっちゃん、正義の勲章ってとこやな」
  バクエンが何気なしに聞いた。
「……違う」
  ゼヌスの言葉は重かった。
「……彼らもまた、昔は子供だったのに、歯車はいつ狂ったのか?本当に、ワシはこれで、良かったのか?」
「……みんな必死なんや、生きるために。こっちかて必死やったんや。やから、今、光が刺してるんやろ」
「……洗い流してくれるだろうか?」
  その光もまた、地平線へと徐々に落ちていっていた。

 

day6/16:48

 

 ルーシとアルバートは、二人揃って座り込んでいた。さすがのルーシですら、戦う気力が起きないほど疲れ果てていた。
「両者引き分けって所かな」
「……ふん、気に食わない」
「偽善者と引き分けたことがか?」
「腕はこちらの方が上のはず、負けるなんて」
「負けてなんかいないだろう?」
  アルバートはヨロヨロと立ち上がり、ボロボロの天使服を羽織った。
「確かに、ルーシ、君の方が腕は上だ。はっきり言って、悔しいけど、オックスさんも越えている」
「そこは有り難く頂いておく」
「でも、俺の中にも、揺るがない正義はある」
「正義だと?」
「偽善者呼ばわりされようと、目指す夢がある限りは、俺の正義は揺るがない」「天界の大義とずれてもか?」
「なら、その大義は俺にとっては悪だし、君にとって、俺の正義が悪だ」
「悪も正義か、馬鹿馬鹿しい」
「また決着は別の時につけよう」
「……ふん」
  アルバートは歩みを止める。
「ああ、大切なことを忘れていた」
「なんですか?」
「……ナルハとエリーの敵を取ってくれて、ありがとう」
  ゆっくりとアルバートはまた歩き始めた。
「……天界を守りたかった。正義を貫いただけだ」

 

 

 

 

 厚い雲の隙間から見せる陽は、地平線の上にまできていた。

 夜のような黒みを帯び、魔物から燃える炎が辺りを照らしていた。

 ポツンと立つ1人の天使。手に持っていたドラゴニックセイバーは魔物達の血が筋を作ってポタポタと黒い大地に落ちていた。

 サラサラとしていた髪も今は少し乱れ、はつらつとしていた眼も、今は少し霞んでいた。

 

 

 

 何も聞こえない世界。自身の放った炎に包まれた戦場跡。

 

 

 

 レイシャは、落ちかけている陽に背を向け、底知れない闇の中へと歩いていった。

 

day6/18:33



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