使う者 使われる物
〜レイシャ編〜
day6/11:21
荒野に幾つも横たわっているのは、獣とも人ともいえぬ戦士の亡骸、もしくは、天使のそればかりだった。
レイシャはそれらを避けながら、戦場を駆けていた。探すものは、二人。
day5/08:12
「どうしてですか!?」
レイシャは紛糾の声を上げていた。
「君は有能な天使だ、まだ戦場に出ては困る」
「ラッズィ君みたいな若い子を出しているのに?」
「彼は……経験のため」
「そんな経験なんていらない!!侵略のための経験なんて!!」
「レイシャ、落ち着くんだ。その言葉はあまりにも失礼……」
「けっこうです!一秒でも早く、この戦いを終わらせる!!」
扉を蹴り飛ばすように開き、隊長の制止を振り切った。
day6/11:23
戦場の様子はあまりにも悲惨だった。
勝利と敗北、以前に生と死が、戦場の空気を独占しているように感じた。死んだ者に、花を手向けるような余裕はもちろん、穴を掘り、埋めるといった余裕すらも、ここにいるものには無いようだった。
嫌な胸騒ぎがした。
ラッズィやシェナの消息は、ここ一週間全くといっていいほど聞かなかった。たしかに、それくらい普通のことではあったが、それがレイシャを不安にさせていた。
そして、この戦場の様子である。赤い大地に横たわる者のなかに……まさか……、最初はゆっくりじっくり調べていたが、焦りからか少しずつ確認も早くなる。
2 weeks ago.
day23/07:35
「…もうすぐだね」
「心配しないでよ、レイシャ姉」
「そうっす、俺達、きちんと帰ってきますから」
「…ごめんね、本当は、私達みたいな人がいかないと行けないのに」
「上の人たちの判断だもん、しかたないよ」
「それに、レイシャさんには、色々お世話になったから」
――それなら
「ラズ、死亡フラグみたいなの立てないでよ」
「ああ、そうだな。きちんと戻ってきます。レイシャさんの出る幕がなくなるようにしてきます」
――それなら
「それじゃあ、行ってきます」
「姉さん、行ってきます」
day6/14:57
「……それなら、いかないでよ。なんで言えなかったかな、あたし」
渇いた大地に涙が落ちる。どこを探してもいない二人の姿。遠く遠い場所へは行っていないことを祈りつつも、胸騒ぎだけは、大きくなっていった。
再び歩きだす。変わらない景色、戦いの音だけ激しく聞こえる。
その音にかき消されそうなほど、かすかな呻き声。心臓が止まりそうな気がした。
目の前の倒れた下級天使から聞こえ、レイシャは駆け寄り、苦手な回復魔法を唱えた。
「……うぅ」
見た目の年齢はラッズィやシェナと同じように見える。実際は二人より若くなるだろうか。
「大丈夫?本軍まで、歩け…」
「……い…やだ」
「しっかりしなさい!しっかりしないと、天界の平和なんか」
「……違う!」
「え…」
下級天使は、うっすらと目を開ける。レイシャの黄色の襟をじっと見る。
「戦場に出てるのは……一部の、上級…それに…」
行きも絶え絶えに話続ける。
「…下級ばかりだ…何が…質の天……上層部は……お前らは……自分の身が…恋しいんだ」
「違う!!私は、そんなこと」
「なら…下級のために……一人の下級のためにでも…死ねるのか……」
返答につまる。自分の身が、確かに恋しい。でも……
「…俺たちは、天界のために…死んでいくんだ……そう言われた……何が…天界だ……俺の身を…ぼろぼろになるまでにして……護る……ものじゃない」
向こうの丘で、歓声があがった。戦闘に勝利した声だった。天界の平和に一歩近づいたなど、色んな声があがるのが聞こえた。
この下級天使は、その声の方をうつろな目で見ながら、最後の力を出していた。
「もう……こりごりだ……戦場に出る者に……正義も…大義も…無いんだよ……雑巾のように扱われ……使い終われば…捨てられる……使えるなら……もっと汚される……
だったら!!」
天使は、最後の力を振り絞り、レイシャの制止を振り切り、近くにあった剣を、自らの胸に突き刺した。
day6/15:25