後に芽生える物
〜ゼヌス編〜
day6/11:12
大きな雲が、魔界の空を包んでいた。
「嫌な雲ね」
ビーリヴ村はいつもと変わりなく、子供たちが遊び回っていた。だが、その遊びといっても、このごろは戦争ごっこになっている。
「早く去ってはくれないだろう」
「今は、じっちゃんやバクエン達が頑張ってくれてるけれど」
「お前もな、ヘレン」
ヘレンは顔を赤らめた。ゼヌスはそんなヘレンに気づくことなく、遠くの方を、じっと眺めていた。
「……少しだけだが、切れ目がある」
「私には見えない」
「そういう風に思わなければ……そして、切れ目を作るつもりでいかなければ……」
丘の向こうから、戦いが始まった、物々しい音が聞こえた。村の子供たちが一斉に、自分の家へと入る。
「ワシは誰が来てもかわまへんよ、まだまだやれる」
「血気盛んね、バクエン。私、失った命までは治療できないから」
「おいおい、怖いこと言うなよ」
「恐らく、ここまでも来るだろう」
ゼヌスの読み通り、一つの天使の軍隊が、村の近くまでやってきた。
「バクエン、ヘレン、交渉に行こうと思う」
「じっちゃん1人でか!?」
「それなら、私たちもいきます、相手は天使、何があるかわかりません」
軍隊の方へと走っていった。
day6/11:15
「誰か来るわね」
「敵襲でしょうか?」
「三人で襲うなんて無謀すぎる。たぶんあそこ村の人だと思うけれど……」
ガヴィリは先頭に出た。恐らく交渉に来たと思ったためだ。
今まで、村らしい村もなかったため、兵士が少し同様している。それなら、今は自分が前に立ち、話をつけなければならない。
ゼヌス達が現れる。
「何の用でしょう?」
「あんたがここの将か?女ならなんとかなりそ」
「バクエンっ!!」
ヘレンが拳骨を繰り出す。
「あだっ!!」
「……隊員は気持ちが高ぶっていますから、容赦はしないですよ」
「こちらに、戦う気はない。かといって、従う気もない」
ゼヌスが切り出す。
「どういうことでしょう」
「ここはビーリヴ村、魔界に生きる孤児達が集まり暮らす村」
「孤児?」
「魔界はそういう子供が多い。……特に最近は」
ゼヌスは最後の言葉を少し皮肉目にいった。
「この村には戦う戦力なんて、私かこのバクエンくらいしかおらん。かといって、天使に従うにはあまりにも幼い者ばかり
もし、これから先のことを考えるのであれば、この場所で戦わないでくれないか?」
「……私の隊は、あなた方とは戦わない。それは約束しましょう。でも、他の隊のことは約束できないし、この場所も戦場になるわ」
「昔は、子供達もままごとや、鬼ごっこ等をして遊んでいたが、最近は戦争ごっこが多い」
「戦争ごっこ……」
「もちろん、あなた方ばかりの責任ではないのはわかっておる。
だが、いずれ、今芽生えた恨みの種は、あの子達が大人になった時、大きな花を咲かせてしまうやも知れん」
「天使に向かってですね」
「そう、残念だが、今の戦争でもそうだ、魔族の敵は天使。どちらが良くとも悪くともな。結局は再び戦争になる。子供達が傷つく。その繰り返しになる」
「……あいつに怒られそうね」
ガヴィリが独り言を漏らす
「わかりました。極力この付近では戦闘はしない。約束しましょう。ただ、他の隊や天使については、約束できません」
「それでも、十分……」
「じっちゃん!!村に賊が!!」
ヘレンは後ろを振り返る、ビーリヴ村が賊のようなものに襲われている姿が映った。
「女の天使の方。約束してくださり、感謝します」
と、ゼヌスが早口で話した後、急いでビーリヴ村へと走っていった。
day6/11:45