WEAKEND
- 創作コンテスト2012 -

序章

 陽炎の中の孤独な戦い
      〜ミカ編〜

 

day6/10:45

 

 自分の放った火が、辺りを包んでいた。その炎による揺らめきか、それとも、魔界にしては珍しく強い日差しから起こる陽炎のせいか、目眩によるものなのか、ミカ自身にもわかりかねていた。
  朝から闘ってきた大天使ミカにも疲労の様子がうかがえた。さらに、幾日も闘ってきたのもあり、その疲労もかなり重い。
  だが、相手も手加減をすることはない。目の前をじっと見据え、魔法の詠唱を始める。
「フレアストーム!」
  いくつもの巨大な火の球が、魔王軍に対して浴びせかけられる。火に焦がれ、20から30もの兵は倒れただろう。
「残り…50と少しいったところね」
  ――ギリギリなんとかなるかしら
「総攻撃だ! 全員で攻撃を放て!」
  生き残った50の兵から、幾つもの魔法、矢が、雨のように浴びせかけられる、避けながらミカは複数の炎弾を放つ。
  ――持久戦になると勝ち目は無い・・・
  ミカは覚悟を決めた。
  「一気に決める!」

「僕の助けが必要なようだね」

 目の前に現れたのは、赤黒い髪、黒い顔、そして、72獣特有の紅い瞳。道化師ともとれる奇抜な黄色の服を着た人型の獣。
「まさか72獣まで手なずけているなんて」
「手なずけるとは・・・猛獣のような言い方はしないでくれたまえ。
  こう見えて、僕は紳士なんだ」
  ミカは思い出した。72獣の中で『紳士』と名乗る者の名前。
「魔界72獣のラビアデカ・・・
  プライドを捨てて魔王軍に下ったか!
  お前に宿る力をなんだと思っている」
  ラビアデカが黒い球体を笑いながら放つ。持っている炎剣で弾くミカに、ラビアデカは嘲笑しながら続ける。
「大昔のことなんて知らないなぁ
  上手に使ってあげないと堕ちてしまうだろう、

 力は」

 ラビアデカの攻撃も加わり、ミカは攻撃のタイミングを見失いかけていた。もう体力もつきかけていた。
「この人数に加え72獣では・・・
  私はここまでか」

 ズオォォ――ン!!

 周りの兵達が、音の方へ走る。次に聞こえたのは、兵たちの悲鳴。
「来てくれた…」
  後ろを振り向かなくともわかる、誰が助けに来たのか。
  「これで目の前の敵に集中できる!」
  ラビアデカに向かって、炎剣ジャッジメントフレイムタンを向ける。

 ラビアデカは舞うように、いや、戦場を愉快に跳びはねながら魔法を次々と放つ。
  闇の気を帯びた魔法を弾きながらミカは距離を詰めていく。
  ラビアデカの目の前に、巨大な炎の壁が現れる。ラビアデカはそれをひょいと乗り越え、再び魔法の詠唱を始める。炎の壁では距離を詰められない。悟ったミカは、覚悟を決めた。
「一気に決める!」
  再びフレアストームを唱え、ファイアウォールも四方に唱える。流石のラビアデカも逃げ場を失った。
「くらえ、ジャッジメントフレイムタン」
  フレイムタンの刀身が伸び、ラビアデカを斬り裂いた。

「…そうか、お前が…
  魔王軍で噂の、『戦場の死神』」
「あいにく、私はそんな可愛げのない二つ名で呼ばれてないわ
  それは私の相方の名よ」
  大きな傷を負ったラビアデカだが、辛そうな笑みを浮かべ
「ここは引かせてもらおう」
  颯爽と去って行った。

 まだ残る炎の熱気に、ミカはすこしくらくらとした。何者かが背中を支えた。
「戦場で孤立しすぎだ
  大天使なんだ。お前がやられる事の意味、知らぬわけではあるまい」
  聞きなれた冷たい忠告。噂の『戦場の死神』
「あなたが来てくれるってわかっていたから
  それにこの大天使の称号は私一人のものではない
  あなたに譲ってもらったものよ」
「俺が来るとは限らない。もう少し、自分の出来る限りを考えろ」
「…ふふ、やっぱり、…思ってた通りのこと言うね」
  視界がぼんやりとしてきていた。目の前が暗くなっていく。
「無理はするな、後は俺がやる」
  その声の後を、ミカは覚えていない。

day6/11:10



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