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私は普通の魔族じゃない
普通じゃない力を持っている
そしてこの力は私を苦しめる
でも、
この力には感謝している
だってこの力のおかげで大切な人達を守ることができるのだから
それでも時々考えてしまう
仲間を傷つける敵を退けるとき
敵は怯えた顔で私を見る
それは魔物も人も変わらない
「私って・・・化け物なのかなぁ。」
「・・・何をまたバカなことを言ってるのよ。
あなたみたいに優しい化け物がいたって全然怖くないわよ。」
思わずそうつぶやいた私に隣を歩いていた青髪の女性が言う
同情や憐れみを全く感じさせないそのさばさばとした声が、呆れ半分の態度が、私をいくらか救ってくれる
「でも敵を倒したあとによく言われるよ。
それにこんな力、普通じゃない。」
無口な私にしてはよく喋る
それにスイマに口答えするなんて
自分でもそう思っているんだからきっとスイマも驚いてる
「あなたのことをよく知らない奴らの言うことなんて気にしちゃダメよ。
それにあなたの力が化け物なら・・・あの男はどうなるのよ。」
私達の視線は鼻唄交じりで前を歩いている男の人に注がれる
最後尾には少し離れた場所から私達を見守るようにトビカゼがいる
私達の少し前を勇み足で歩く少年がダイチ
そして先頭がバクエン
彼は私と違って戦闘が大好きだ
どんな強さの敵と戦っても互角の戦いをして楽しんでいる
それはつまり
彼が圧勝したり、ボロ負けするところを見たことがないということ
それはつまり
私達は彼が本気で戦っているところを見たことがないということ
彼はいつも戦いを楽しんでいる
でもそれは本気じゃない
多分本当に彼が本気で戦うときは楽しめない戦い
楽しんではいけない戦い
そう彼はどんな戦闘でもいいというわけではない
トビカゼから聞いた話だけど
村が燃えたあの日
私たちがあらゆるものを失ったあの日
彼はとても戦いを楽しんでいるようには見えなかったって
どうして彼は本気で戦わないのだろう
「なんや、どうした?」
気づいたらバクエンが私の目の前にいた
「・・・ねぇ、バクエンも戦いが怖いの?傷つけるのが怖いの?」
バクエンは頭をかきながら少し考える
「ワシにはおぬしの考えてることは難しすぎてよくわからんわ。」
スイマが軽くため息をついた
「この男にそんな質問をしても無意味よ。」
「だってバクエンは何にも考えてないもんねー。」
「やかましいわ!」
ダイチの言葉で私たちは思わず笑ってしまう
でもスイマもなんとなくわかってる
多分、彼は何も考えていないようですごく考えてる
私たちにそれを見せないようにしてるだけ
無意味っていうのはそんな事を聞いても彼は決して答えないということ
あの日、私はただ泣いているだけだった
逆上したり悲観に暮れる私たちに後ろを振り返らないようにさせた彼は
真っ先に家族の屍を踏み越える決意をした彼は
どんな気持ちだったのだろう
どんなにつらかったのだろう
どうして彼はあんなに強いのだろう
旅にようやく慣れてきた私は最近そんなことを考えるようになった
「待って、バクエ・・・!」
離れようとした彼の腕を掴もうと伸ばした手が空を切る
その瞬間、彼がとても遠い場所にいる気がした
近く見える彼と私たちのこの距離は・・・本当はどのくらい遠いのだろう
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私はバクエンに村に連れて来られた
気付いたときには一人だった私
魔物に囲まれた私を彼が
・・・確かあの時はまだ髭はあんまり生えてなかった気がする
変わらないのはあの真っ赤な長髪
ちょうど今の私くらいの歳だった彼が助けてくれた
そして居場所を与えてくれた
あの時からすごく感謝してたからかな、人見知りが激しい私にしては彼にはよく懐いてた気がする
そう言えばまだダイチよりも幼かった私に才能があるって言って、戦いを教えようとしてヘレンさんに怒られてたっけ
・・・結局教えられたけど
「ふふっ・・・。」
「何、どうしたのダーク?」
「ううん、何でもないちょっと昔を思い出して。
ゴメンねスイマ。」
「そう・・・?」
スイマはちょっと不思議そうな顔をしている
「村長、この村で一番強いのはだれ?」
それが私が初めて村長に自分から話しかけたときの言葉
その時すでに大好きだった村のみんなを守りたいって思ってたからだと思う
村長は私が自分から話しかけたこともあってニッコリと笑いながら私の頭に手をおいた
「誰が一番ということに意味はない。この村は皆が強いん・・・。」
そこまで言って村長は言葉を止めた
多分私が村長の言ってる強さの意味をわかっていて
その上で聞いてるって気付いたんだと思う
「まぁ・・・バクエンじゃろうな。奴の強さは一線を踏み越えておるからな。
あいつは守る物が増える度に強くなっていく。
一体いつから奴はあんなに・・・。」
そう言って村長は考え事をするように独り言をつぶやきながら帰っていった
彼が恩人だったこともあったからか私は彼に惹かれていた
みんなが好きだったけど
ちょっとそれとは違った
これが『恋愛』っていうものなのかなって思ったりもしたけど
やっぱり私にはそれがよくわからなかった
どちらかと言うとそれは『憧れ』だったんだと思う
あの強さがあればもっと多くの物を守れるようになるのかな
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「ちっ、いい加減くたばれよ。」
「はぁはぁ・・・。
私達は負けない・・・!」
「貴様にダークは絶対に渡さない・・・!」
私たちを襲う天使ホリィ
悔しいけどあいつは強い
私とトビカゼで一緒に戦ってやっと互角くらい
「ワシの身内に手出しはさせんよ。」
そこに逃げていたダイチがバクエンを探して連れてくる
「はっ、だったらてめえも一緒に剣のサビに変えてやるよ。」
戦闘を開始する二人
辺りに響く鈍い金属音と爆音
でもしばらくするとジンが剣を納める
「ちっ、ふざけてんのかてめえは!!」
苛立ちを隠せないホリィ
「何を言っとるんや。楽しいのはここからやろ。」
「・・・てめえはどこかあの笑顔ヤローに似てやがる。」
「何のことや。」
「本気、本気って言っときながらいつも底をみせねぇ。踏み越えた者の余裕のつもりかよ。
・・・見てろよ、いつか必ずその余裕を消して恐怖の面に変えてやるよ。」
「・・・・・・。」
一線を越えた者
踏み越えし者
『超越者』
私は村長とホリィの言葉からそれを思い浮かべた
「ほんまどうしたんや、少し休むか?」
私の顔を覗き込むバクエンとスイマ、ダイチ
そして後ろにいるトビカゼがいつもより近くにいる気がする
彼が本気を出さない理由
彼が恐れているものは一体何?
傷つけること?
ううん、多分私は本当はわかってる
うまく言葉にできていないだけ
だって私も前に似たことを感じたことがあるから
とても恐ろしい考え
誰もを信じることができなくなる考え
でもその時バクエンも含め、皆に救われた
だから今度は私の番
言葉にしなきゃ、伝わらないこともあるよね
「バクエン!」
「うわ、なんや!いきなり大声出したらびっくりするやないか!」
「私、私たち、バクエンのこと怖いなんて一度も思ったことないよ!!」
静かな森に私の声が響く
「・・・・・・。」
少しの沈黙の後、彼はまた前を振り向く
「なんや、今日のダークはホンマ変やな。」
そう言った彼の口元は、微かに緩んでいた
その瞬間
彼との見えない距離が、少しだけ縮まった気がした
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