WEAKEND
- 創作コンテスト2012 -

「そこまで!」

広場に美しくも鋭い声が響く。

この日、ビーリヴ村では年に一度の大切な行事が行われていた。

それは『ビーリヴ少年少女最強決定戦』だ。

いつかはビーリヴ村の戦力を担うことになるであろう子ども達の才能を開花させることを目的として行われている。

大まかな概要としては、子ども同士が1対1で実践形式の対戦をし、審判が勝負アリと判断した時点で終了。

そして最終的にはトーナメントで勝ち残った者が優勝となる。

形式こそ本格的ではあるものの、やはりまだ幼い子ども同士の対決であるため、内容は取っ組み合いをする程度のものがほとんどである。

空気も殺伐としているというよりはむしろ和やかな雰囲気で試合は進行していた。

そして、審判を務めるスイマが最後の対戦カードを読みあげる。

「決勝戦・ダイチVSアレッソ!」

「よっし、やるぞ〜!」

「・・・」

やる気満々なダイチに対して、終始冷めているアレッソ。

反応が真逆な二人が対峙した。

「やっぱりこの二人が勝ち残ったか…。予想通りやな」

普段は子どもに苦手意識を抱くバクエンも彼らの『闘い』には関心がある様子だ。

しかし…。

「スイマ、予定通りに進めるで」

「わかってる」

「バクエ〜ンいいところで口出さないでよ〜」

あからさまにバクエンに対して顔を歪ませるダイチ。

「(はぁ〜、これやから子どもは苦手なんや)

いいかダイチ、これから二人は実践形式やなくて別のことで勝負してもらう」

「ええ〜なんで〜!! バクエンのバカ〜!」

「…何でもいいからさっさとしてくれよ」

「ぐっ」

それぞれの言葉がバクエンに突き刺さる。

子ども相手にムキになりかけたバクエンを見兼ねてスイマが話しかける。

「いい?二人とも。もしあなた達が本気で戦ったら安全を保証できない。だからバクエンやダーク達と話し合って別の方法で勝負しようって決めたの」

「そうやな。特に…」

「な、何でこっち見るんだよ!オイラだってアレッソ君には負けてないぞ!」

「ま、それはともかく大戦内容を発表するで」

「流すなぁ!」

まあまあとスイマがダイチをなだめる。

「対戦内容は〜…」

大きく間をためる様子から、もったいぶっているのが容易にわかる。

スイマやアレッソ、その周りはあきれ気味に、

少しは期待する気持ちがあるダイチは息を飲んで真剣に聞いている。

「な、内容は?」

ダイチは胸が高まっているのを自覚した。

 

「二人三脚や!」

 

・・・

一瞬、広場は沈黙に包まれた。

「え?」

ダイチは思わずポカーンと口を開けた。

アレッソは何も言わないが明らかに怪訝な顔をしている。

 

「も、もう一回言って」

するとバクエンは何故か誇らしげに繰り返した。

「二人三脚や!」

また暫く沈黙した後…。

「ええ〜!そんなのつまんないよ!」

「文句の多いやつやな〜。ちゃんとスイマやダーク達と話し合った結果やで?」

「む〜」

『ダーク』や『スイマ』の名が挙がってしまってはダイチは何も言い返せない。

 

一応納得したと見てルール説明に入った。

「二人三脚だから当然ペアが必要な訳だけど、村人なら誰でも大丈夫よ」

「まずはそのペアを探すのが優先やな」

それを聞き、ダイチの頭には真っ先にある人達の姿が浮かんできた。

早速行動に移そうとする彼だったが…。

「ダイチ、ちょっと待て」

バクエンがまるでその行動を予測していたかのように止めに入った。

「なんで止めるんだよ〜!」

「どうせダークかスイマのところにでも行くつもりだったんやろ?」

「うっ」

完璧に図星だった。

「スイマは審判を任されてるし、ダークは今一生懸命景品を作っとる。暇なんてないんよ」

この大会の景品とは『ダークの手作りドーナッツ』であり、ダイチもそれが目的でここまで頑張ってきたのだった。

「それに、二人三脚をやるなら歩幅が近い方がいいやろ。ダーク達では歩幅は合わんよ」

「む〜、じゃあ誰にすれば…」

「おるやろ」

「え?」

「こういう時こそ友達の出番や。違うか?」

バクエンの目線の先にはトトとネニーネの姿があった。

ダイチが二人の方を見ると、彼らは手を振ってくれた。

二人とも応援にかけつけてくれていたのだった。

「おいら、二人のところに行ってくる!」

そう言って、ダイチは二人の元へ走っていった。

「まったく世話のやける子やな」

とは言いつつその顔は満足気だ。

 

ダイチ、トト、ネニーネの三人は話し合いを始めたのだが、結論はすぐに出たようだ。

「二人三脚ならオレと組もうぜ!」

「僕は二人を応援してるね」

話し合いの結果、ダイチとトトがタッグを組み、ネニーネは応援という形に納まった。

ただし、トトは優勝したらドーナツは山分けにするという条件付きのようで、最初は渋っていたダイチもそれに了解した。

 

タッグを組むとダイチはバクエン達のところへ戻った。

「決まったようやな」

「あとはアレッソ君ね」

噂をすればなんとやらの法則でアレッソも相方を連れてやって来た。

「オレのペアはヴェイパーだ。いいハンデだろ?」

「ちょ、なんでオレはハンデ扱いなの?オレだって一応子ども達よりはできるつもりなんだけど。

…逆立ちも上達してきたし」

「逆立ちくらい誰でもできるよ」

逆立ちできないよ…と心の中では言っているダイチとトトだったが、

さも当たり前のことのように言うアレッソの前では言えなかった。

「二人とも準備ができたようやな。

早速決戦の舞台に向かうで」

バクエン達に連れられ、ダイチやアレッソ達、その他のギャラリーが大移動を開始した。

村の外に広がる草原にはラインが引かれていた。

「これがおぬし達が走るコースや。

結構準備に苦労したんやで」

その言葉通り、ラインも正確に楕円形状に引かれており、さらにコースの周りは走り易いように草が刈られている。

ダイチはこの日のためにみんなでここまで用意してくれたと思うと感慨深いものを感じていた。

「どうや、ちょっと感動したやろ」

その言葉の主はしたり顔に満ちていた。

「い、いや、そんなことないから!」

何故か恥ずかしくて身体が熱くなるのを感じた。

「まあ、いいやろう。

ちなみにこのコース(トラック)は一週200メートルや」

「そして先に一周した方が優勝よ」

対決の全貌が明らかになり、いよいよ勝負が始まる…それを感じてダイチの心臓の鼓動が高まっていく。

一方のアレッソは相変わらず表情に変化は見られない。若干の気だるさを感じる程度である。

二人の目が合った。

しかし、すぐにアレッソは目を逸らしまう。

もはや相手にすらされていない。

勝負の前でありながらダイチはそう感じとっていた。

だが、そう感じたのは今回が初めてではない。

普段からアレッソはダイチ達と一緒にされるのを嫌がっていた。

それにも関わらずその瞳は暗く陰っており、哀しげだった。

まるで以前の自分のようだ…ともダイチは感じていた。

 

『友達なんかいらない! オイラは一人でも生きていけるんだ!』

 

かつての自分の声が心に響く。

 

「ん? ダイチ、どうしたんや?」

「え? あ、なんでもない!」

「…? なんやよくわからんが、そろそろ準備しなあかんやろ」

 

ダイチとトト、アレッソとヴェイパーはそれぞれの片足を布切れで結びつけた。
そして…

「うわっと」

慣れないからかよろめきながらもスタートラインに二組とも並んだ。

「準備はええか?

ワシが爆炎を上空に打ち上げる。

そいつが爆発したらスタートや」

了解したとばかりに彼らは首を縦に振る。

 

ドキッ、ドキッ

ダイチの胸の高鳴りはこの日の中で最高潮に達していた。

それこそ心音が外に洩れているのではないかと思う程に。

「位置について…よ〜い…」

スイマの掛け声と共にバクエンが爆炎を打ち上げる…。

火球が最高点に達したその時、

ドゴォーン!!!

 

轟音がダイチ達の耳を貫いた。

「うわぁ!」

その場にいた誰もが耳を塞いでいる。

 

「ちょっとは手加減しなさいよ!」

「わ、悪い。手加減したつもりやったんやけど」

バクエン達がそんな会話をしている時に、

ズキズキと痛む耳を押さえながらもアレッソタッグが先にスタートした。

一方のダイチ達は未だにしゃがみ込んだまま立てずにいる。

前を見据えればアレッソ達は既に前方を走っている。

「あっ、マズイ、トト!いくぞ!」

「ちょっ、待っ…」

ダイチは駆け出したが盛大に転んでしまった。

「いくぞって言ったでしょ!」

「こっちはまだ準備できてなかったんだ!」

挙げ句の果てに喧嘩をしてしまう始末。

出鼻を挫かれたダイチ達とは対称に、アレッソ達は極めて順調に進んでいた。

 

「息ピッタリですね」

観客達の整備係であるトビカゼとヘレンもレースの様子を見ていた。

「うん、なかなかだな。

ああ見えてあの二人は仲がいいからね。

ダイチ君達はどう思う?」

「ダイチは村の中でもかなりの俊足です。

ですがどうも今は焦りが出ていてパートナーのトトが見えていないように感じます」

「流石は村一番の俊足、すばらしい解説ね。

ところでトビカゼ君は誰とタッグ…いや、カップルになりたいのかな?」

「オレは…って何言わせようとしてるんですか!」

思わずトビカゼはあたふたしてしまった。

「いや、参考までに…。てっきり私はダークさんと付き合いたいのかと思っていたのだが」

「いえ、ダークさんは尊敬してますけど、そういったことを考えたことは…」

「そうか。後になって気付いて後悔したなんてことにならなければいいが…」

「なんでオレがダークさんに好意を寄せている前提なんですか…?」

「おっと、なんだか困らせてしまったみたいだ。失礼した」

 

「なんや向こうは楽しそうな会話をしてるみたいやな。

ところでスイマは…」

スイマの冷たい視線がバクエンを突き刺した…。

「すまん。何でもない…」

すっかり話題が脱線している人達をよそに、レースの展開は進んでいた。

ダイチ達もようやく進めるようになってきたものの、

最初につけられた差は大きかった。

もはやその差は半周分。この差を覆すことは不可能に近かった。

「追い付けないよ〜、どうする?ダイチ?」

「ああ〜もう!こうなったら!」

ダイチは地面に手をかざし、魔力を流し込んだ。

すると、アレッソ達の前に尖った岩が数本生え、壁のように立ちはだかった。

「これはストーンエッジ! バクエンこれはいいの?」

「ん〜、ルールとかも特に決めてなかったしな…。

まあ、この方が面白くていいんやないか?」

「はぁ…、あなたって人は…」

スイマは呆れ果ててしまった。

 

「アレッソこの壁、どうする?」

「避けて進むのも面倒だから壊す」

「壊すって言ったってなぁ…。

剣があればどうにかなりそうだけど今は持ってないし…」

「問題ないよ」

静かにそう言うとアレッソは手に魔力と力を込めた。

「大気を揺るがす大地の怒り…

ボルカニック・セロ」

突き出した拳が壁に触れた瞬間、噴火したかのような爆発が起きた。

岩の壁は粉々に砕け散った…。

「す、すげぇ…」

思わずヴェイパーが感嘆の言葉を洩らした。

「これくらい普通だよ。さあ、さっさと進もう」

「お、おぅ」

まるで何事もなかったかのようにアレッソは足を前に進めた。



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