WEAKEND
- 創作コンテスト2012 -

※ややグロ描写あり。

−−ブリザード・ヘル

雪はやんだが、いまだ風は強い。強風の轟音の中、兵士は片手で大剣を雪へ突き刺し、倒れそうになるのをかろうじて耐えた。柄に体重をあずけ、目を閉じ深呼吸する。肌に痛みを覚えるほどの冷気で肺を満たし−−兵士にはもう痛覚など麻痺していたが−−真っ白に染まる息を吐きだす。やがて兵士は覚悟を決めて、凍りついたまつげを震わせながら目を開いた。
兵士の視線のさきには女、というより少女か。華奢な体などかんたんに吹き飛ばしてしまいそうな風をまったく苦にもせず、青い乱れ髪を手で直しつつ颯爽と雪を踏んで兵士に近づいてくる。鎧をまとった兵士と比べて、少女は薄着の上に黒のコートをはおっているだけだ。しかし、丈の短いスカートから覗く剥きだしの腿は鳥肌すら立っていない。……兵士は断定する。自分たちに技を撃ってきたのはこの女だと。
魔王八騎士、ユイ。氷の像に囲まれて、二人は対峙する。像の表情はどれも凄惨さを極めていた。目をまなじりが裂けそうなくらい見開き、悲鳴をあげながら絶命したせいか眼球と口内まで凍っている者。腹ばいになり、助けを求めるように片手を虚空に差しだしたまま固まっている者。逃げだそうとしたのか、背中を向けた格好の者。そして、ユイを睨みつける兵士もまた、右の肩から手まで氷像と化していた。
なぜかユイは仕かけてこない。兵士はゆっくりと大剣を雪から引き抜き、左手で構えた。大剣を取り落とさないようにするのが精一杯という様子で。勝敗は明白だった。だが兵士に逃げるという選択肢はない。そんな恥をかくくらいなら潔く散る。兵士は武人であった。
ユイはただ、構えもせずに兵士を見守っている。気合いの叫びをあげながら兵士が弾丸のように突進してきた瞬間、ユイはかすかに唇を笑みの形に歪めた。

兵士の斬撃を難なくかわし、右腕に撫でるように触れる。氷が肉ごと爆ぜた。

大剣を落とし、そのそばに兵士はうつぶせて沈んだ。神経が完全に壊れていたのか、痛みは感じない。
ユイが微笑みながら兵士を見下ろしている。
「君、イイね。助けてあげようか?」
兵士は少し時間をかけて、仰向く。それから腰に差していた短剣を抜いた。

ユイは無表情で、自害した兵士を見下ろしている。風に再び雪が混じりはじめた。



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