※世界崩壊注意
※オリキャラ注意
###
僕はクドウと言う人の家の中に入ってしまった。
知らない人の家に勝手に入っていいのかな?
「まあいいよね。ワカバちゃんの家でもあるんだから」
「ん、なんか言った?」
「別に何でもないよ、ワカバちゃん」
クドウさんの家は外から見た様子と同じで、中も綺麗で広かった。
狭くて汚い僕の家とは大違いだった。
「ねえワカバちゃん?」
「にゃーにー?」
ワカバちゃんが本当の家のようにくつろいでいる。ソファーの上で死神様とじゃれついて遊んでいた。
僕としてはワカバちゃんの機嫌が直ってくれて本当によかった。
流石死神様だと思う。
「この家に何か用事でもあるの?」
「んっ?」
死神様の肉球をぷにぶにと触るワカバちゃん。
「何言ってるのよ、今朝言ったでしょ?
今日から私の親と、あんたのおじさんおばさんが一緒に旅行に行ったから、夕食は二人で済まそうって!」
「そうだったけ?」
もちろん僕はそんな予定は知らない。
僕は今日もいつも通りにハバネと稽古するつもりだった。
「そうよ!だから私があんたの面倒を見るために派遣されたってわけ!」
「……そうなんだ」
「それなのにあんたと言えば何度電話をかけても出やしない!」
「ごめんね、ワカバちゃん」
とは言っても、何で僕が怒られているのかは、未だによくわからない。
「それにしても久藤家にも久々に来たね」
「いつくらいから来てないの?」
「うーん、5年ぶりくらいじゃないの?
てかそれくらいあんたが覚えてなさいよね!」
5年ぶりも何も、僕にしたらこの家が初めてだからのね?
……っと思ってはいたものの。
「なんだか懐かしいよね」
「そうねー」
何故か僕も初めて来た気がしていない。
僕はけして日本人なんかじゃない。
なのに、何故僕はこんなにも日本に馴染んでいるんだろうか?
いや、日本に馴染んでいると言うよりは
−−キイチ君に馴染んでいるのだろう
読めないはずの日本語も、庭に隠された鍵も、知らないはずのこの家も、すべてが手に取るようにわかる。
でもそれも僕の知識の訳じゃない。
森の国に住む僕がそんな知識持っているわけはありえない。
だから、そう、きっとこの知識は誰かから借りているんだと思う。
何と無くそう思った。
根拠はほとんどない。でもこの家の居心地の良さはおかしい。まるで本当に我が家みたいだ。
それに肝心のキイチ君もいない。なんでだろう?
まるで一つだけ歯車が抜けた時計みたいな世界だ。
そしてそのキイチ君と言う歯車が抜けた世界に僕がぴったりとはまりつてある。
僕にどんどんとキイチ君の知識が溢れてくる。
それは何か怖くもあり、それなのに何かホッとしてしまうことだ。
僕はどうなってしまうのだろう
−−みっ
考え事をしていると死神様が僕の肩の上に乗っかって来た。
「ちょっと重いよー死神様ー」
くすくすとワカバちゃんが笑う。
なんだかどうでも良くなってきてしまった。
「あっ、そうだ貴一!あんたの部屋も見せてよ!!」
「……部屋?」
たぶんこの家の2階にある部屋だと思う。
僕の中の何かがそう言っている。
「さあ、そうと決まったら行くわよ!!」
「えっ、ちょっ、待ってよワカバちゃん!!」
とたとたと彼女が走って行った。
※※※
「痛い!やめろ!!
それくらい自分で出来る!!」
俺はボロボロの身体を文字通り引きずられて、よくわからない小さな家に連れてこられた。
流石森の国、家も木造なら部屋の家具も木造で、家から見える景色も木ばかりであった。
「ちょっと、暴れないでよ!動けないようにするわよ?」
その家に連れてこられた俺は、問答無用で井戸の水をぶっかけられて服をひん剥かれそうになっていた。
しかし、もちろん女子にそんなことを許すつもりはなかった。
「馬鹿野郎!何しやがるんだ!!」
やっとの思いでハバネから逃げ出した俺は戦闘体勢に入っていた。
「馬鹿とは何よ!せっかく私があんたの傷を治してあげようとしているのに!!」
「ならいきなり水かけたり、服脱がそうとするなよ!!」
傷の治療ならいろいろと手順がおかしい。
「何よ!いつもやっていることじゃない!!
いまさら何を恥ずかしがってるの?」
「……いつもだと?」
おい、クドー。お前こいつと何してんだ。俺と同じ見た目なら、せいぜい中高校生くらいのはずだろ?
「だからあんたの裸を見ても何にも思わないの!
いいから服を脱げ!!」
「どこまでだ?」
「馬鹿!上着だけでいいの!!」
流石に下は脱がすつもりはなかったのか……。
「ほら、早くここにうつぶせになる!
とっととしなさい!!」
警戒心は外さずに、ハバネが指し示した木製の長椅子にうつぶせる。
「あんたいつの間にこんなだらし無い身体になったの?
もやしじゃない!」
いつの間にか手に何かの軟膏を持ったハバネが俺を見て言った
「もやし言うな!!」
人が気にしていることをグサリと刺し込んで来た。
「もうっ、動かないでっ!
黙って寝てなさい!!」
言われなくともそうすることにした。
「………」
「………」
沈黙が流れる。でも不思議と不快ではない沈黙だった。
ハバネが塗っている薬も染みるようなものではなく、どちらかと言えばひんやりして気持ち良かった。
「……なあ」
「…………」
聞きたいことがあったが、無視されてしまった。
ちらりとハバネを見た。
見れば見るほど彼女は木梨に似ている。
姿形も確かに似ているのだが、それだけではない。何と表せばいいのかわからないが、しいて言うならば……
−−魂が似ている
まるで木梨とハバネは双子のようである。
一つ一つの動作は違っても、何故か同じように見えるのである。
仮に二人が入れ代わったとしても、誰も彼女らには気がつかないのではないか?
そんなことを俺は思っていた。
いろいろと不思議なことが起こり過ぎて頭の演算能力を越えてしまったのかも知れない。
例えば、俺がここにいること。
例えば、ここがどこなのかわかること。
例えば、名前を聞かずとも相手の名前がわかること。
結局ハバネは自ら名前を明かさなかったが、今の俺は彼女名前を知らず知らずに知っている。
最初どこだったかわからなかったこの家も、今は俺とそっくりのクドーの家だとわかった。
この世界の知識がどくどくと流れ込んで来る。
それはまるで根から木の先の葉に養分を送っているよう気分だった。
世界が俺の身体へとゆっくりと流れ込んで来るのだ。
それは安らかでもあり、しかしそれはとても恐ろしいことだと思った。
俺が、俺の証が薄れて行く……。
そんなは嫌だ。絶対に嫌だ。
なにがなんでも嫌−−
「はいっ!終わり!!
これであんたは明日からも私の健全なる奴隷として生きれるわ!」
バシンと背中を叩かれた。
###
「へえー、これがクドウキイチ君なんだ、本当に僕にそっくりだねー!」
「いや、本人なんだから当たり前でしょ?」
僕とワカバちゃんはキイチ君の部屋で、キイチ君の道具を荒らしていた。
本当に荒らしていただけだから、綺麗だった部屋は見るも無残な形に変わり果てていた。
ワカバちゃんは何かないかと、ガサゴソと机の中身や戸棚の中をひっくり返すし、僕も興味があったから止めなかった。
「それにしても懐かしいわねー。
あんたが虫みたいに小さなときの写真からあるじゃない!」
そんなことをしていたら、キイチ君のアルバムが見付かった。
今は二人でそれを眺めている。
暗くなって来た外から、優しい夕焼けが窓から僕らを照らした。
「それを言ったらワカバちゃんだってこんなに小さいよ」
「私は小さいんじゃなくて愛らしいの!」
「あんまり大差ないと思うけど?」
「虫けらのあんたと比べないで欲しいわ」
わざとらしく髪をかき上げるワカバちゃん。
それを横目にキイチ君の姿をじっと見つめる。
本当に僕とそっくりみたいだった。
まるで鏡の中を見ているみたいな僕がそこにはいた。
僕にはない記憶ばかりだったけど、写真を眺めていると、ふとした瞬間に懐かしさを感じる。
やっぱり今の僕はキイチ君と何か関わりがあるようだ。
「ほらっ、貴一!あんたが素手で金魚を捕まえようとして池に落ちたときの写真もあるわよ!!」
写真を見る限り、ワカバちゃんがキイチ君を池に蹴落としているようにしか見えなかった。
「衝撃的一枚だねー」
キイチ君とワカバちゃんは本当に小さいときから幼なじみらしくて、キイチ君のアルバムなのに所々でワカバちゃんが登場していた。
どうやらキイチ君の親がワカバちゃんをお気に入りのようで、ワカバちゃんが一人で写っている写真も何枚か出て来た。
「でもワカバちゃんって本当にハバネに似てるよ」
「だからハバネって何なの?唐辛子?」
「ハバネは唐辛子じゃないよ!僕の友達」
さっきから死神様が見当たらない、部屋の中に埋まってしまったのかな?
「……ふーん」
ワカバちゃんが、目を細くして僕を睨んでいる。
「どうしたの?」
「とりあえず私はそのハバネって人には似てないわよ!
似ているのはハバネさんが私に似ているの!
わかった?」
あまり変わらない気がする。たぶんハバネも同じことを言うだろうし……。
「うん、わかったよワカバちゃん」
「わかったならよろしい!
……ふう、そうね、あんたの部屋にももう飽きちゃったし、そろそろ晩御飯にしようか?」
「ワカバちゃんって料理出来るの?」
確か、キイチ君の面倒を見るために来たみたいなことを言っていた気がする。
「当たり前よ!私を誰だと思っているわけ?」
ハバネは料理がまったく出来なかった。この分だとワカバちゃんも出来そうにない。
「それなら僕も手伝うよ」
そう言って僕は先に部屋を出た。
僕が最初に包丁や食器の位置を確認しないと、たぶん怪我人が出るだろうから。
「あっ、ちょっ、待ちなさいよ!!」
夕焼けが夕闇へと変わり始めた部屋はどこの世界でも共通だと思えた。
※※※
夕焼けが森を包んでいた。
ふと郷愁が心の一角を占めていることに気が付いた。夕焼けはどこの世界でも一緒なのだ。
「赤いな……」
肩肘をついて寝転びながら呟く。
「赤いわね……」
丁度脇の辺りに座っているハバネも呟いた。
数時間前に流れていた激しい戦いの時とは違い、時間がゆっくり流れていた。
「ところでさ」
「何よ?」
けだるそうにハバネが返事をした。
「なんでお前まだこの家にいるんだ?」
傷は既に手当てしてもらった。後は安静にしているだけで治るらしい。
そしてどうやらクドーとは、訓練以外の約束は特にしている風でもない。
それなのに彼女はまだここに、クドーの家に、俺の家にいた。
クドーはきっと俺がこの世界にいる限り、帰ってくることはないだろう。
それは俺の中で、誰に聞くまでもなく、確信へと変わっている考えだった。
「はあ?あんた何言ってんの?
ここはあたしの家でしょうが!!」
いや、それは違う。ここは確かにクドーの家だ。
……そういえば小さいとき木梨がうちの表札に落書きしていたな、っとそんなどうでもいいことを思い出した。
「いや、待てよ!ここは俺の家だ!!
そんなことあるはずはな−−」
「寝言は寝て言いなさい!!
確かにここはあんたの家よ!!
でもね、今は私の家でもあるんだから、そんな我が物を顔しないでちょうだい!!」
こいつは何を言っているんだ?
今は私の家でもあるってなんだ?
それなのになんで俺の家なんだ?
様々疑問が俺の脳裏に浮かび、次の疑問に掻き消されていく。
「……それは本当か?」
「馬鹿!!マヌケ!!当たり前でしょ!?
だって私達−−」
−−夫婦なんだから
###
結局夕食は僕が作った。
作ったのはカレーって言う謎の料理。
理由はワカバちゃんが作ろうと言い始めたからで、作り方はカレーの元と言う箱の裏に書いてあったからなんとかわかった。
でも僕からすればとても簡単な料理で、作りがいはあまりない。
作りがいはなかったけど、ワカバちゃんが美味しそうに食べている姿を見ていると、僕は作ってよかったと思えた。
それにカレーが今まで食べた食べ物の中で一二を争う美味しさだったから、僕も文句は一つもない。
カレーを食べていたら、ワカバちゃんが急に「カレーには牛乳は必須よ!!」と言い出して、水ではなくて牛乳を飲み始めた。
僕も試しにカレーに合わせて牛乳を飲んでみたら、なるほどこれは美味しかった。
どこからか現れた死神様にも牛乳を分け与える。
そんなこと夕食を終えて、僕たちはゆっくりとくつろいでいた。
目の前にはテレビと言う変な箱が、ピカピカといろいろなものを映し出している
「……zzz」
気が付くとワカバちゃんがソファーで死神様を抱き抱えて寝ていた。
やっぱり寝顔もハバネにそっくりだと思う。
「……そう言えばハバネは大丈夫かな?
ちゃんと食事を取れているかな?」
キイチ君がいないこの世界にいるこの僕は、きっとキイチ君の代わりなんだろう。
だったらキイチ君もきっと僕の世界で僕の代わりをしているに違いない。
「僕が帰ってたら、もしかしてハバネをキイチ君に取られているかもなー」
もともと僕とハバネは違う家に済んでいた。
でも預言があったときはよく一緒に遊ぶよう指示されていたし、ハバネはよく預言を無視していたので、お互い昔から気心は知れていた。
しかし、革命のとき、彼女の家は外から来た変な魔王軍に押し潰されてしまった。
なんとか家を直そうとしたけど、革命後はいろいろと王様もごたごたしているようで、遂にハバネは自分の家の復活を諦めた。
「それで僕の家に転がり込んで来たと……」
僕をからかっているのか、ハバネは冗談で僕と夫婦を名乗っている。
預言がなくなってから久しぶりに会った、僕の両親や、ハバネの両親にもその冗談を言ってしまったらしい。
しかもハバネの両親に「君なら安心して娘を任せることができる」なんて言われてしまった。
僕的にはいろいろと逃げ道がなくなっていくみたいですごく不安だ。
−−ブルブル、ブルル
目の前のテーブルに置いた、キイチ君の、今では僕の携帯電話が鳴る。
開けて画面を見てみると、不在着信のお知らせが三件と表示されていた。
どうやら僕が一人のときにワカバちゃんが何度かかけ鳴らしたらしい。
慣れない手つきで、頭から湧いてくる知識を使い携帯のクリアキーを押す。
そして僕は携帯を閉じようとした。
しかし、ふと携帯からさっきの不在着信とは違う文字が表示されていることに気が付く。
「えっーと、何々?」
−−一時停止中のアプリがあります。
−−再開しますか?
僕はYesを選んだ。
※※※
俺はがつがつと食事を取ってふて寝することにした。
ハバネの話を聞いているかぎりではクドーは幸せな奴である。
幸か不幸か寝るのは違うベットだった。
逆に同じベットでも、目の前にあるのが木梨とほぼ同じなのだから、あまり変な気は起きないと思う。
俺は静かに目を閉じる。
時間はわからないが、辺りは暗く、周りに人工の光りなんてまったくない。
ハバネはすぐ隣のベットにいたが、まあ、俺の知ったことではなかった。
「……zzz」
本当に木梨に似ている。
俺はぎゅっとクドーの、俺の木の棒を抱き抱えた。
木の温もりが安堵を付かせてくれた。
「おっ、そうだ!!」
木の棒に触れていると、あることを思いついたので、俺は起き上がった。
「そういえばこの辺りに木を掘るノミがあったと……」
サイドボードの中を手の触感だけで探る。
「……んっ、これだな」
片手にノミ、もう一方には木の棒を持って、月明かりを頼りに窓辺に移動する。ここが一番月明りが明るい。
ランプを点けようと思ったが、ハバネを起こしてはまずいとやめることにした。
「よっし、やるか!」
木の棒にノミを宛がった。
月明かりが青々と照らす、満月の夜の出来事だった。
###
僕の世界がそこには描かれていた。
僕の時代がそこには描かれていた。
皆の戦いがそこには描かれていた。
「…………」
気がつくと夢中でそのアプリをやり込んでいた。
時計を見るとさっき八を指していると思ったのに今は十二を指している。
もう一度アプリを起動した画面を見てみる。
「……やっぱり僕の世界だ」
短いお話だったけれど、確かに僕の世界だった。
ふうと、一息溜め息なのかわからない息を吐き出した。
「何を溜め息してるの?」
「ワカバちゃん起きてたの!?」
気がつくとワカバちゃんが後ろから僕を覗き込んでいた。
「起きてたのじゃなわよ!もう十二時じゃない!!
……んっ、何してるの?」
携帯電話を見ながら尋ねる。
「……ああ、これって珍しくあんたが薦めてきたアプリじゃない!
あんたのせいで買われたバージョンもあるわよ!ほらっ!!」
ワカバちゃんが大量の人形と、それに繋がれた携帯電話を見せてきた。
画面にはキイチ君のとは違う主人公、僕の王様達が映っていた。
「これどうしたの?」
「だからあんたに買わされたんだって!」
「やってみてもいいかな?」
「いいけど明日にしなさい!私は帰らないといけないから」
ワカバちゃんが大きく伸びをする。
「なんで帰るの?」
僕が首を傾げる。
「なんでって……、あんたそりゃあ私に泊まってけって言ってるみたいなもんよ!?」
気のせいかワカバちゃんの顔が赤い。
唇の尖んがりも消えている。
「別にここはワカバちゃんの家でもあるんだから寝泊まりしてもいいんじゃないの?」
「……………………それも、……そうね」
妙な空白がある返事だった。
「でも下着とかパジャマとかは家にあるから取りに帰ることにするわ」
「ならそのままワカバちゃんは家に帰ったまんまでめいい−−」
「すぐ帰ってくるから!!」
そう言い残してワカバちゃんは走り去って言った。
僕の手にはワカバちゃんの携帯電話が残っている。
一人になってしまった。
−−みゃん
「あっ、ごめんね死神様!」
うっかり彼のことを忘れていた。
死神様はぐるぐると部屋の中を歩き回ると、僕の膝の上でまた寝始めた。
しばらく沈黙が流れる。
死神様が乗っているから僕は動けずにいた。
「あっ、そうだ!」
さっき携帯電話を使っていたらあることをしたくなった。
ワカバちゃんのアプリは後でさしてもらうことにして、今はそっちをしようと思う。
「えーっと、確かメールってこのボタンで……」
ぱちぱちとゆっくりとキーを叩く。
窓からひっそりと満月が顔を出している夜のことだった。
▲▲▲
「うおっ!?」
起きぬけに木梨の顔を見てびっくりした。
何故お前が俺のベットの中にい−−
−−木梨?
−−俺のベット?
本当にハバネじゃなくて木梨か!?
俺はぺたぺたと木梨の顔に触れてみる。
「うーん」
木梨が呻く。慌てて手を離した。
勢いよくベットから飛び出る。
「って!!」
勢いよく出過ぎて転んで頭をぶつけた。
ぶつけた忌ま忌ましいものの正体を見ると、いつも俺が使っている学習机だった。
忌ま忌ましさが愛しさに様変わりする。
「……俺は、戻ったのか?」
▼▼▼
「ほらっ、早く起きなさい!
私の朝ごはん作って!!」
僕が起きると目の前にハバネの顔があった。
「うん、わかったよハバネ!
……ハバネだよね?
ワカバちゃんじゃないよね?」
「ワカバって誰よ?」
よかった、どうやらハバネらしい。
意識が覚醒して少し余裕ができた僕は周りを眺めてみる。
どうやらいつも通りの僕の家だ。
でも何故か僕は窓際の椅子に座っていた。
「……僕は、戻ったのかな?」
▲▲▲
「それで、なんで昨日お前が俺ん家の、しかも俺のベットにいたんだ?
旅行から母さんが勘違いして大変だったんだぞ?」
「あんたが誘って来たくせにさっさと寝たんでしょうが!!
私のドキドキを返せ!!」
「無茶言うな!!」
元の世界に戻ってから次の日、俺はいつの間にか、俺の部屋に入り込んだ木梨と話合っていた。
「っと言うか、何故木梨が俺の部屋−−」
「若葉って呼んで!!」
「は?」
「いいから、あのときみたいに私の呼び方を若葉に戻しなさい!!」
木梨の唇が怖いくらい尖っていた。
「そんなの嫌に決まっ−−」
「若葉って呼んで!!」
クドーの奴はいろいろと厄介な置き土産をしていったらしい。
「……わかった!呼べばいいんだろ呼べば!!」
俺に選択肢はなかったらしい。
「っで、その若葉はなんで今俺の部屋にいるんだ?
俺の親はまだ働いて家にはいない時間だろ?」
怖いほどニッコリと笑いを浮かべて、若葉が笑い返す。
「まあ、いいじゃない!
ここは私の家みたいなものなんだから!!」
クドーは本当に一体何をしでかしたのだろうか?
今朝見たらスペアキーの隠し場所から家の鍵がなくなっていた。この様子だと絶対に若葉が持っているに違いない。
若葉だけでなく、他にもいろいろとおかしな変化があった。
俺の部屋が嵐が来た後の様に散らかされていたし、何故か小さな黒猫が家を我が物顔で歩いている。
そして手元の携帯にも少しだけ変化があった。
▼▼▼
僕の世界はほとんど何も変わっていなかった。
でも世界はがらりと変わっているように見えた。
わかっている。
変わってしまったのは僕だ。
僕は、僕の世界の違う可能性を見た。
だから僕の世界は変わってしまったのだろう。
「クドー!訓練に行くよ!!」
「わかったよハバネ!!」
僕はいつも使っている木の棒を握りしめた。
手には少しだけ削られた違和感がある。
▲▲▲
『もう一人のクドウ・キイチ君へ
死神様を頼みました
もう一人のクドー・キーチより』
▼▼▼
『クドウキイチ参上』
Fin...